みなさんはSNSでのコミュニケーションは得意なほうですか。私はコロナ以前は興味すらありませんでしたが、コロナ禍で外出自粛生活が続く中、人との繋がりを求めていくつか一気に始めました(どれも長続きしませんでしたが)。
SNSの世界を体験して気がついたのは、オンラインでの交流もオフラインの世界同様、もしくはそれ以上に、外向性が低く内省性が高い人にとってはハードルが無数にあるということでした(私が長続きしなかった理由をお察しください)。
もうひとつ、「対面の会話」と「オンラインの文字でのやり取り」に共通しているのが、意思疎通に言葉だけではなく表情やジェスチャーなど様々な資源が使われているということです。
TwitterやFacebookができるより前から、日本ではYahoo!チャットというサービス(2000年ー2014年)があり、興味や世代の枠の中(チャットルーム)で人々が交流していました。実際に会うことのない他人とやり取りするのだからさぞかし自由な世界なのかなと、SNSを経験する前なら思っていたかもしれませんが、やり取りの相手が生身の人間であるという理解がある限り、現実世界の‘常識’やそのコミュニティーの中で形成されていく‘慣習’から完全に逃れることはできません。
例えば 「30代」チャットルームを覗いてみると、主婦の参加者が多く、はじめましてのあいさつは「お初どす」と書いたり、家事や用事でちょこっと抜けるときは「ロムします」(ロム=ROM ‘Read only member’の意)と告げたりするのが慣習になっていたそうです。そして、初心者の人が理解できないほど様々な種類の顔文字が多用されていました。以下の例のように、誰に向けられたメッセージか山括弧( > )とひらがなで示すのも慣習化していたようですね。
kazu-chan: 出勤です、またあそんでね♪
pure: p(*^-^*)q がんばっ♪>かず
hanabi: イッテラー( ̄ー ̄)ノ▯"フリフリ
pure: ▯∼∼ヾ^-^) マタネッ♪>かず
このチャットルームでの主なトピックは出産、子育て、家事、配偶者、ロマンスについてでしたが、真剣な相談をするというより愚痴を言いあったり以下の例のように主婦としての自身の生活をいじったりすることによって親密性と仲間意識が高まって、ちょっと一息つける場所になっていたようです。顔文字はこのコミュニティーの「スラング」としてだけでなく、ざっくばらんで和やかな雰囲気を作るのにも貢献していたみたいですね。日本では人とやり取りするときにお互いの関係性やそれぞれの役割についての共通認識が重要視される(ハイコンテクスト文化な)ので、相手と面識がなく表情もうかがえない環境では場づくりに力が注がれるのも納得がいきます。
akiwolf: 寝てばっかりやんかっ!(滝汗)<自分
yuiyui: ヾ(*゚Д゚*)ノあははねることはいいこと>あき
akiwolf: 良く寝る大人は、横に成長するんだぞ▼・_・▼(笑)
yuiyui: そーなんか>あき
akiwolf: ええもう。立派に成長しました▼・_・▼(笑)>ゆいゆい
顔文字や絵文字は言葉よりも移り変わりが速いので、今回紹介した2000年代初頭の顔文字は懐かしかったり世代ギャップを感じたり理解できなかったりするのでしょうか。そんなことも分からないほど私の顔文字レパートリーは学生の時に使っていた(^^) (^^;)(笑)で止まっています。
引用・参考文献
Katsuno,
Hirofumi, and Christine R. Yano. 2007. Kaomoji and expressivity in a
Japanese housewives’ chat room. In Danet, B. and Herring, S. (eds.), The
Multilingual Internet: Language, Culture, and Communication Online. pp. 278-300.
Oxford University Press.