会話中、自分の言ったことを相手がよく理解できなかったとき、その相手が理解があっているか確認を求めることがあります。例えば以下の例を見てください。せっかくなので穴埋め問題にしてみました。あなたはB氏で同僚のA氏と自分たちのスポーツチームのトレーニングメニューについて話しあっています。
B: ウエイトの時にあの~なんちゅうんすか。
こう~ストレッチとか~やらしたらいいんじゃないすかね。
A: ウエイ[トの‐
B: [ケア‐ ケア的な。
A: え、ウエイトの日にストレッチ入れろってこと?
B: ______。
あなたが提案したことをA氏はよく理解できなかったようです。そして「え、ウエイトの日にストレッチ入れろってこと?」と理解の確認を求めてきました。A氏の理解があっている場合、あなたはどう答えますか。
選択肢は以下の二つ。
❶ はい。
❷ そうですそうです。
どちらも肯定表現なのでしっくり当てはまります。でも、どこかニュアンスが違います。
「はい/ええ/うん/んん」の類は単に聞き手の理解があっているということを示します。
一方、「そう/そうです」の類は聞き手の示した理解があっているという『理解の肯定』だけでなく、自分が言わんとしていたことを聞き手がうまく表現してくれた、という『ナイスアシストの認識』も示します。
また、「そう/そうです」を使うことにって、【自分が言ったことを理解できなかったのは聞き手の聞き逃しや理解力が原因なのではなく、自分が意図したことをうまく(相手が分かるように)表現できていなかったせいだよ】という話し手のスタンスも相手に示すことができます。
上の選択肢にあるように、「はい/ええ/うん/んん」の場合はそれぞれ1回のみで発話されることが多いのに対し、「そう/そうです」の場合は圧倒的に2回や3回繰り返して発話されることが多いそうです。
さて、話し手が言ったことをよく理解できなかったときの確認の方法は4つの種類があります。
① 物理的にその場に存在する物を指したり触ったりして理解を確認する
② 代名詞など発話場面に依存した意味を持つ言葉を明確化して確認する
③ 話し手が省いた情報を言語化して確認する
④ 話し手が言ったことを言い換えて理解を確認する
この中で①~③は単なる理解の確認として捉えられることが多いのに対し、④は理解の確認だけでなく話者が意図したことを代弁してくれた『ナイスアシスト』としても捉えられることが多いそうです。つまり傾向として、①~③に対する反応は「はい/ええ/うん/んん」が多く、④に対する反応は「そうそう/そうですそうです」が多いというわけです。
それぞれ例をあげておきます。
①の例
M: あたしも焦げてるのほしい。
S: ((テーブルの上のピザを見る))
これ? ((一切れのピザを手で触りながら))
M: んん。
②の例
O: いやでもあれおもしろくできる教科ですよ。
G: 日本史?*
O: んん。
(*「あれ」を「日本史」と明確化)
③の例
O: 連れの下宿行っていっしょに作ったんです。
G: マーボーナスを?
O: はい。
④の例
D: ぼく前トシキのとこ行くときに乗ろうと思って乗れなかってん。
T: ああ、岐阜に?*
D: そうそう。
(*「トシキのとこ」を「岐阜」と言い換え)
以前のコラム(「はい」と「うん」)ではインタビュー中のあいづちとして使用される「はい」と「うん」の違いを扱いましたが、同じ言葉でも話脈やポジションによって機能が異なるというのはインタラクティブな話しことばを理解するうえで不可欠な観点です。
引用・参考文献
Kushida, Shuya. 2011. Confirming
understanding and acknowledging assistance: Managing trouble responsibility in
response to understanding check in Japanese talk-in-interaction. Journal of
Pragmatics 43, 2716–2739.
用例の出典
Kushida, Shuya. 2011. Confirming
understanding and acknowledging assistance: Managing trouble responsibility in
response to understanding check in Japanese talk-in-interaction. Journal of
Pragmatics 43, 2716–2739.