あ、ああ

 


歩けるようになった赤ちゃんが外の世界を探索中に何かを指差して、

「あ、あ!」

と言うときは、何かを発見したという合図だ。

私なんか今でも急に知り合いに声をかけられると、

「あ、どうも」

と無意識に「あ」がついてしまう。

会話の中で「あ」が使われるのは、自分の中で新たな『気づき』が生まれたことを示すとき。次の例では、チロルチョコの値上がりを相手の発話によって知った気づきを「あ」が示している。

「チロルも今二十円ですよ、ふつうに一個買うと」

「あ、そうなんですか」

会話の中では「あ」の他によく「ああ」も使われる。次の例では質問を受けた相手の答えに対して「ああ」で反応している。

              「東京でも行くんですか、釣り」

              「いや、東京ではね、一度も行ったことないです」

              「ああ、そうですか」

「ああ、そうですか」の代わりに「あ、そうですか」で返しても自然だが、ニュアンスが違ってくる。「ああ」を使うと、相手の答えは自分の過去の経験や知識と照らし合わせて考えると、想像しうる又は納得のいく答えだ、というニュアンスになる。つまり、「あ」が反射的な気づきを示すのに対し、「ああ」は何らかの『理解』を表す。

「あ」とは違い、「ああ」はある程度人生の経験値がないと使いこなせない。赤ちゃんにはまだ意味をもたない表現だ。

ひとりごとで「ああ、辛いなぁ」とか「ああ、よかった・・・」とつぶやけるのは、今までの経験と記憶があるからで、このような心情の表現に「あ」は使えない。

「あ」と「ああ」が同時に使われるときもある。そんな時は「あ、ああ」の順番で発話される。

「あっ、ああ、そうかそうか。びっくりした」

まず、「あ」が反射的な『気づき』を示し、それから「ああ」がその知識に対する何らかの『理解』を表している。反射的な反応に時間はかからないが、既存の知識と照らし合わせる作業にはちょっと時間がかかる、ということだ。

誰かと話すとき「あ」と「ああ」に注目して話してみると面白いかもしれませんよ。あ、会話に集中できないか。


引用・参考文献

Endo, Tomoko. 2018. The Japanese change-of-state tokens a and aa in responsive units. Journal of Pragmatics 123: 151-166.

Iwasaki, Shoichi. 2014. Grammar of the internal expressive sentences in Japanese. In Kaori Kabata and Tsuyoshi Ono (eds.), Usage-based Approaches to Japanese Grammar. Amsterdam: John Benjamins, pp. 55-83.

ねこしおり(文)・高橋和枝(絵)2018『あ、あ!』偕成社

用例の出典

Endo, Tomoko. 2018. The Japanese change-of-state tokens a and aa in responsive units. Journal of Pragmatics 123: 151-166.