あいづち×あいのて

日本語の会話にはあいづちがやたらに出現するって聞いたことがあると思います。どのくらい多いかというと、例えば英語の会話と比べると控えめに言っても2倍は使われているみたいです。

あいづちが打たれる場所も違っていて、英語の“mm-hmm”とか“uh-huh”は話し相手の発話の句切れやその兆候が見られるところで『オッケー、話聞いて理解してますよ。どうぞ続けて』という合図を送り、会話というシステムの中で円滑にやりとりを進めるための機能をはたしています。

ところが日本語の場合、相手の発話の句切れもまたその兆候も見られないところで聞き手が「うん」とか「ええ」とか「はあ」とか、あいづちを打つのがふつうです。

日本語のあいづちにも英語と同じような【やりとり円滑化機能】はありますが、それにまさって、【合いの手機能】が中心的な役割をはたしているようです。

「合いの手」と聞くと民謡の「ア、ソレ」「ヨイヨイ」、また手拍子などを思い浮かべると思いますが、会話の中の【合いの手機能】を理解するには、会話という行為を単にやりとりのシステムとしてでなく、『共同作業』として捉える発想の転換が必要です。

例えば、カラオケで聞いている人が歌詞には載っていないかけ声をかけたり、アイドルのライブで観客がコールをしたりしますが、このような「合いの手」を入れることによって、一見一方通行の歌を歌うという行為が聞き手も参加する『合作』に変わります。

「あいづち」という言葉自体も語源をたどると、鍛冶屋が鋼を叩いて刀を作る時に、師匠が小槌を打つ合間にタイミングを合わせて弟子が大槌を打つことを言いました。漢字で表すと「合槌」ですね。

会話に話を戻しましょう。日本語の会話では聞き手が積極的にあいづちを打って共同作業に参加するのはもちろん、話し手も積極的に聞き手の参加を促します。終助詞の「ね」やうなずく動作は自然と相手の同調を誘う効果が認められています。

また、カラオケやライブと違い、会話の中では話し役と聞き役は常に流動的に入れ替わります注1。一般的な会話とはちょっと違いますが、お題を与えられたディスカッションのような場面では、共同作業の参加者が話し役にまわるかサポート役にまわるかという交渉もあいづちを通してなされたりします。

次の例を見てみると、Bが「ああ、うん」とあいづちを打った後にAの「うん」というあいづちが続き、『「うん à うん」あいづちループ』が形成されています。『あいづちループ』は、あいづちにあいづちで返すことにより「ワタシ、チョットワダイギレ。Bサン、オネガイ」という、よく言えば「譲り合い」悪く(?)言えば「甘え」に頼った交渉方法です。 

A「そう、そいでなんか車ん中にいて」

B「ああ、うん」

A「うん」

B「いや、だ注2、アフターショック...

たかがあいづち、されどあいづち♪(ア、ソレソレ)あいづちを打ち合うことで、お互い安心して話ができるんですね。

最後に、いろいろなあいづちをリストしておきます。顔文字はうなずく動作です。

うん、ええ、はい、ああ、はあ、ほお、ふ~ん、へえ、 (^^)(_ _) (^^)(_ _)


1.  話し手・聞き手の区別が全くないような完全な共同参加型の時もある。

2. 「だから」の意

引用・参考文献

Clancy, Patricia M., Thompson, Sandra A., Suzuki, Ryoko, Tao, Hongyin, 1996. The conversational use of reactive tokens in English, Japanese, and Mandarin. Journal of Pragmatics 26, 355–387.

Iwasaki, Shoichi, 1997. The Northridge earthquake conversations: the floor structure and the ‘loop’ sequence in Japanese conversation. Journal of Pragmatics 28, 661–693.

Kita, Sotaro and Ide, Sachiko. 2007. Nodding, aizuchi, and final particles in Japanese conversation: How conversation reflects the ideology of communication and social relationships. Journal of Pragmatics 39, 1242-1254.

用例の出典

Iwasaki, Shoichi, 1997. The Northridge earthquake conversations: the floor structure and the ‘loop’ sequence in Japanese conversation. Journal of Pragmatics 28, 661–693.