「うん」はYes/No疑問文に対する肯定応答の「はい」のくだけた会話バージョンという印象が強いと思いますが、です・ます調の丁寧な会話専属の「はい」に比べて、「うん」はくだけた会話にとどまらず、丁寧な会話の中にもたくさん出てきます。
かしこまったやり取りの中で「うん」がどのくらい使用されているのか、21本のインタビューを調査した結果によると、「はい」が1,073回だったのに対し、「うん」は「はい」の使用数を上回り1,474回だったそうです。さらに興味深いのは「はい」と「うん」の使用頻度と話者の役割、つまりインタビューのホスト(インタビュアー)かゲスト(インタビュイー)か、に関連性が見られたことです。ホストとゲスト、どっちがどっちを多く使ったと思いますか。
答えは以下の通り。
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「はい」 |
「うん」 |
ホスト |
246 |
1,382 |
ゲスト |
827 |
92 |
ホストは「うん」の方を多く使っていて、ゲストは「はい」を多く使っています。どうしてこのような偏りが見られるのか、「はい」と「うん」の機能に注目して見ていきます。
まず、ゲストはホストに多くの質問をされるのでその『肯定応答』に「はい」を使います。ホストはインタビューする立場にあるので質問を受けること自体まれです。
次に、以下の二つの例にあるように、ゲストは『話者交替の合図』としても「はい」を使います。Hがホスト、Gがゲストです。
(1) H: で、ここ、こうポンと踏むと
G: はい。あの、5キロ以上の重さが加わると、本当に人間であってもそうじゃなくても、
(2)G: アフガンでも50度ぐらいなる所で皆さんそうゆう作業を続け
ていくわけですから、大変な作業だと思います。はい。
(1)ではホストの発話を受けて「はい」と言って、相手から自分への話者交替の合図(今は自分が話す番で、話す意志もあるよという合図)を送っています。(2)では自身の発話の最後に「はい」と言って、自分から相手への話者交替の合図を送っています。『肯定応答』の「はい」と同様、『話者交替の合図』の「はい」もゲストは多く使いますが、ホストはめったに使いません。インタビューの話題は終始ゲストに関するものなので、その気になればゲストはいつまででも語ることができそうですが、それだとスピーチになってしまいます。ゲストが積極的に話者交替の合図を送ることによってホストとのやり取りをスムーズに進めることができます。
最後に、インタビュー中の「はい」と「うん」の機能で一番多かったのは、ゲストもホストも『肯定応答』でも『話者交替の合図』でもなく『あいづち』でした。そして、ゲスト(G)はあいづちに「はい」をよく使うのに対し、ホスト(H)は圧倒的に「うん」を多く使っています。
(3)H: なみさんは(G:はい)その、お‐障害のある方を(G:はい)チャレンジド、英語のチャレンジド(G:はい)といゆうふうに呼ばれるそうですね
(4)G: で、まあ夜中過ぎまで書いて(H:うん)夜は(H:うん)あの、あんまり夜までそうゆう状態続けると(H:うん)眠れなくなっちゃうんで
以前のコラム「あいづち×あいのて」で、日本語のあいづちは相手との共同作業の中で聞き手が話し手を気持ちの面でサポートする【合いの手機能】が中心的だと書きましたが、参加者の役割がはっきりしたインタビューのような活動では、個々のあいづちの機能が顕著に表れるようです。
ゲストがよく使う「はい」は、話の内容に焦点を当て、内容の理解に努めていますよという態度を示します。一方、ホストがよく使う「うん」は、話の内容は置いといて、相手が話しているという行為に注目し、その行為をサポートしさらに促す態度を表しているようです。ふられた話題についてその場で語らなきゃいけないゲストにとっては何を聞かれているのかきちんと理解することが重要ですが、ホストの関心はゲストに気持ちよくたくさん話してもらうことです(内容は事前の準備で把握済み)。
つまり、ホスト・ゲストそれぞれの役割と「はい・うん」のあいづちとしての機能の相性がかなりよかったということですね。マッチングアプリなら70%ぐらいは叩きだすかもしれません。
ぜひ、YouTubeやネットで公開されているインタビューで「はい」と「うん」の用法を確認してみてください。新しい発見があるかもしれません。
引用・参考文献
Tanaka, Lidia, 2010. Is formality
relevant? Japanese tokens hai, ee, un. Pragmatics 20(2),
191–211.
用例の出典
Tanaka, Lidia, 2010. Is formality
relevant? Japanese tokens hai, ee, un. Pragmatics 20(2),
191–211.